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先生が教えてくれなかった「言語聴覚士」

言語聴覚士になりたい学生さんや、言語聴覚士になりたての方に向けた、学校の先生が教えてくれないことを綴ります。

言語聴覚士一年目:二人の患者さんの死

 

 

今回は、私が言語聴覚士になって一年目の冬、

ちょうど同じ日に入院されてきた二人の摂食嚥下患者さんたちについてお話します。

 

タイトルにもあるように、

2症例ともかなり悩んで、自分なりに寄り添いましたが

翌年に亡くなってしまいました。

私の中ではかなり大切な経験で、今でもあの頃自分はどうするべきだったのか、思い出す内容です。

 

 

 

お二人とも70代前半くらいの女性が、とある日同じ病室に入院されました。

その時、他の入院患者さんや新規の外来患者さんなどで

担当決めがバタバタしていたのもあり、

二人とも私が担当させていただくことになりました。

 

尿路感染症と軽度の認知症で入院されてきた、Bさん。

こちらも尿路感染症と中等度の認知症で入院されてきた、Cさん。

 

お二人は、性格も真逆で、私が悩んだ内容も真逆の患者さんでした。

 

 

Bさんはとても気さくでよく笑う方でした。もともとお上品な方だったようで、趣味は刺繍やお裁縫。歌を歌うことも好きなようでした。

入院当初は3食経口摂取でしたが、入院中にイレウスが見つかり、すぐに手術へ。

 

術後の安静期間中に、軽度だった認知症は大きく悪化し

中等度~重度へ。私のことも娘として認識されているようでした。

廃用が進むにつれて、持病の腰痛も悪化していき

臥床時間が長くなり、徐々に嚥下機能も低下していきましたが、

「温かいご飯が食べたいなぁ」と口癖のように話していました。

 

 

Cさんは気難しい方で、定年するまでは小さな会社の社長をしていた方。病室でもサングラスは外さないし、かなり頑固な方でした。

入院する際に診断された尿路感染症は、1週間程度で改善され、身体機能は良好でした。

しかし退院できなかったのは、「摂食拒否」が強かったため。

 

もともと独居だったCさんはご飯を食べない日も多かったとご自身ではお話されていました。

身寄りもなく、施設への退院を目指していましたが、

摂食嚥下機能は年齢相応に保たれているのに

一日何にもごはんを口に運ばない日も沢山あり、

このような状態では退院は無理だと施設職員や病棟側の判断。

 

 

 

摂食希望が強いのに体力や嚥下機能が下がっていく、Bさん。

 

嚥下機能は保たれているのにご飯が食べたくないため退院ができない、Cさん。

 

 

 

 

これもだいぶ悩みましたね…。

 

 

Bさんは、理学療法士さん、作業療法士さんと共に

臥床時間を増やすことや、誤嚥性肺炎の予防に努め、

間接的な嚥下訓練を繰り返していきました。

次第に嚥下機能は上がっていきましたが、

3食経口摂取とまではいかず…

 

途中で熱発し、リハに入れない日もあり、

絶食状態やゼリーのみの摂取に留まることが増えていきました。

 

最終的に、かなり衰弱してしまったBさんは

実用的な経口摂取が難しい状態になってしまい、

それでも何とか「食べたい」という気持ちを汲みたい

と思った私は、少量ずつのアイスクリームを

毎日口腔ケアや拘縮予防のマッサージの後に実施しました。

 

絶食状態だったBさんが、久しぶりにアイスクリームを口に入れた時、

流した涙を私はずっと忘れないと思います。

「生きててよかったなぁ…」と一言言ったBさんの笑顔を忘れないと思います。

私がお休みの日も、先輩STさんに引き継いで

もうきっとこれ以上は難しいだろう、と判断するまで

Bさんのアイスクリームは栄養科から提供され続けました。

 

 

 

Cさんは、それはもう栄養科さんと連携して

様々な食事を提供しました。

パンや麺類、おかずの大きさを変えてみたり、

牛乳・ヨーグルト・ヤクルト…

同じ法人内で運営していた隣の老健から3時のおやつをいただいてきたり( ;∀;)

 

それでもことごとく、「いらない」「食べたくないって言ったら食べたくないのよ」の一点張り。

食欲不振は言語聴覚士のリハビリに入るのか…???

と思いながらも、せっかく嚥下機能が保たれていて

体もまだ元気なんだから退院してほしい!!

という気持ちはチームみんな一緒だったようで

 

できるだけ気分が晴れるように車いすでお出かけしたり(「ベッドから出たくないのよ!」と拒否されることのほうが多かったですが)

他のリハビリと連携して体を動かしてもらうプログラムを実施したり

 

色々と試行錯誤はしてきましたが、

やはり中等度の認知症もあるということで

結構攻撃的な一面やその日の気分によって少しごはんを食べてくれたりなど、ムラはありました。

しかし、あまりにご飯を食べない日が続いたため、

Cさんには継続的に点滴が投与されることになり、

一日の中でほとんどの時間を点滴しているため

臥床している時間も徐々に長くなっていきました。

 

今すぐ食べられる機能はあるのに、どんどん衰弱していくCさん。

たまに、「ごめんなさいね。あなたが嫌いなわけじゃないの」と

きっと認知症になってしまう前のしっかりとしたCさんが

見え隠れするからこそ、余計にやりきれない気持ちになりました。

 

Cさんは、最後までご飯を食べないまま、

たまにヤクルトを飲んだりおやつを食べたりして

亡くなってしまいました。

 

 

 

 

 

まだ言語聴覚士になって一年目の私は、

食べたいのに食べられない。食べれるのに食べたくない。

そんな相反する二人の担当になり、

自分が担当じゃなければ食べられただろうか、退院できただろうか。と思い悩みました。

 

自分は自分なりに、その時できるベストを尽くしたのは間違いありませんが、

リハビリを担当する最中で、それが仕事なんだとしても

誰かの死に立ち会うのは本当に酷で、

決して無駄にしてはいけない経験なんだと思いました。

 

 

きっといずれ一人では対処しきれない患者さんに出会う日もあるかと思います。

その時は、今の自分にできるベストな選択ができるよう

先輩や看護師さん、その他コメディカルスタッフに相談し

患者さんのための最善策を見つけることができるよう

応援しております。

 

 

 

では、今回も最後まで閲覧ありがとうございました!